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7月新紙幣発行で飲食店悲鳴 両替機更新で負担大、使えない自販機も 自治体が補助

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新紙幣に対応した券売機について説明する「麺屋 青空」の店主、本田隆士さん=大阪市中央区(桑島浩任撮影)

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7月3日の新紙幣発行を前に、両替機やレジスター、券売機などの更新が進んでいる。銀行ATMや鉄道券売機などの対応は発行までにおおむね完了する見込みで、市民生活への大きな影響はなさそうだ。一方で飲料の自動販売機では更新が追いつかず、新紙幣が使えないケースも出る可能性がある。また、小規模な飲食店では更新費用が負担となっており、一部の自治体では補助の動きも出始めている。

 

「両替機を新紙幣に対応させる費用は、中古の両替機を購入したときの費用より大きい」。こう話すのは大阪市中央区のラーメン店「麺屋 青空」店主の本田隆士さん。券売機は約10万円をかけ新紙幣に対応させたが、約20万円かかる両替機は更新できていない。

 

この店では、ラーメンを新型コロナウイルス禍前と変わらない750円から提供しており、材料費や電気代の高騰で経営は厳しい。本田さんは「新紙幣対応の費用を稼ぐのは大変。少しでも補助があれば」と訴える。

 

機械などを新紙幣に対応させる費用は最大で100万円以上かかるケースもあり負担は大きい。小規模飲食店などの窮状を受けて一部の自治体では補助の動きも出ている。東京都葛飾区では、中小規模の店舗を対象に1台につき上限30万円の補助を実施する予定。愛知県大口町では昨年9月から上限50万円で補助をしている。

 

新紙幣の見本(表)=2023年6月28日午後、東京都北区・国立印刷局(酒井真大撮影)

 

ただ、新紙幣対応専用の補助を行っている自治体は多くない。今年7月までに小規模な店舗がどこまで新紙幣に対応するかは未知数だ。

 

自動販売機や通貨処理機などを扱うメーカーでつくる「日本自動販売システム機械工業会」によると、銀行ATMや鉄道の券売機は7月までにほぼすべて対応が完了する見込みという。全国に221万台ある飲料自販機は「紙幣流通量を見ながら順次対応されていくとみられる」とする。自販機で飲み物を買う際に新紙幣が使えないケースに当面注意が必要そうだ。

 

一方、同工業会は、新紙幣対応の設備投資による経済効果は5千億円に上ると試算しており、通貨処理機メーカーは特需に沸く。業界最大手のグローリーは、昨年夏以降の生産ピーク時は人員を通常より300人増員して対応。新紙幣に対応した製品の販売や保守で令和5年度に500億円の売り上げがあった。国内ATMでトップシェアの沖電気工業(OKI)は生産のピークが続いており、新紙幣発行によるハード更新などの需要は2、3年続くとみる。

 

ただし、前回の平成16年の新紙幣発行と比べると特需の効果は縮小しているようだ。グローリーは前回には前後3年間で900億円の増収効果があったが、それを下回る見込みという。一部機種がソフトウエアのアップデートで対応できるようになったことやキャッシュレス決済の拡大が影響しているとみられる。新紙幣対応コストが重くのしかかるため、キャッシュレスへとかじを切る事業者が今後増える可能性がある。

 

 

キャッシュレス化が加速も

 

新紙幣への対応が本格化する一方で、飲食店や自治体の窓口が完全キャッシュレスへと切り替わる動きも出ている。日本のキャッシュレス決済比率はほかの先進国と比べて低いものの、現金を扱うコストの高さの問題から新紙幣発行を機に普及が進む可能性もある。

 

経済産業省が3月に発表した2023年の国内のキャッシュレス決済比率は39・3%で、新紙幣発行が発表された19年から10ポイント以上伸びた。クレジットカードの決済額が増えたことに加え、QRコード決済の普及によって順調に伸長した。

 

ただ、ほかの国と比べるとまだ日本での普及は進んでいない。

 

産官学の連携組織「キャッシュレス推進協議会」によると、主要国のキャッシュレス決済比率は21年時点で、韓国95・3%、中国83・8%、オーストラリア72・8%、英国65・1%、米国53・2%と日本より高い。比率が異なる背景には、貨幣の信頼性と入手しやすさの違いがある。偽造されにくく、どこにでもATMがある日本ではキャッシュレスに切り替える必要性が低い。

 

 

一方、日本でも人件費削減のためいち早くキャッシュレスに切り替えるケースがある。埼玉県は今年1月から運転免許更新などの窓口での手数料支払いを原則キャッシュレスへと切り替えた。収入証紙を扱うことでかかる人件費の削減が目的という。首都圏を中心にレストランやカフェなどを展開するグローバルダイニングも今年1月から国内全店舗で現金の取り扱いを廃止し、完全キャッシュレス化した。

 

同協議会の担当者は「新紙幣への対応コストや人件費増を避けるため、キャッシュレスがさらに広がる可能性がある」としている。

 

筆者:桑島浩任(産経新聞)

 

 

タンス預金あぶり出しの狙いも 第一生命経済研究所・永浜利広首席エコノミスト

 

永浜利広首席エコノミスト(第一生命経済研究所提供)

 

新紙幣発行の最大の目的は偽造防止だろう。しかし、別の狙いとして新紙幣への交換などによる「タンス預金のあぶり出し」があると推察される。個人が保有する現金は100兆円を超えており、高齢者を中心に自宅で現金を保管するタンス預金を増やす傾向にある。タンス預金はお金が有効に使われていないことを示すので、消費や投資に回った方が経済にとってプラスになる。

 

一方で政府はキャッシュレス化も促進したい。日本のキャッシュレス決済比率はほかの主要国より低いが、政府は将来約8割まで拡大する目標を掲げている。キャッシュレスの普及で、人手不足緩和やATMなどの設置・運用コストの削減が期待されている。

 

紙幣の刷新に対応するための投資はとくに小売業などにとって負担になる。負担を避けるため、QRコードやクレジットカード決済が増え、キャッシュレス化が進む可能性がある。

 

キャッシュレス化に加え、新紙幣への対応がソフトウエアの更新で可能となっていることから、特需は20年前ほど大きなものは期待できないだろう。

 

聞き手:桑島浩任(産経新聞)

 

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