新緑に映える手漕ぎ和舟 八幡堀(滋賀県近江八幡市)
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新緑に包まれたお堀を手漕ぎの和舟がゆっくりと進む。35分ほどの〝舟旅〟を楽しんだ人たちは、満足げな笑顔を浮かべて、次の目的地へと向かった。
滋賀県近江八幡市にある八幡堀で体験できる「八幡堀めぐり」。時代劇のロケでも使われる古風な町並みを和舟で巡る。
乗船場に着くと、「日本一遅い乗り物。手漕ぎ和舟でお堀めぐり。ゆったりと船頭のご案内で楽しいひと時を…」と書かれた看板が迎えてくれた。
船頭を務める堀尾秀治さん(73)は舟の動きにあわせて、八幡堀の歴史を語り始めた。
「豊臣秀吉のおい、秀次が、天正13(1585)年に整備したお堀です。琵琶湖とつながり、往来する舟を寄港させ、商業都市の礎(いしずえ)を築きました」と滑らかな声が響く。
八幡堀にも存続の危機があった。昭和40年代には水草が生え、自転車やタイヤなどが不法投棄されるようになった。生活排水でたまったヘドロが悪臭を放ち、一時は「埋め立てて駐車場や公園に」と行政が動き出したが、「堀は埋めた瞬間から後悔がはじまる」と住民たちの懸命な働きかけで、くいとめた。
手漕ぎ舟で八幡堀めぐりを運営する有限会社ラビットハウスの高木茂子社長は、課題は「後継者」だという。手漕ぎ舟は免許がいらないかわりに熟練した技術が欠かせない。船頭の浜田栄一さん(72)は、「まっすぐ進んでいるか、手で水の抵抗を感じながら常に舟の舳先(へさき)を見ています」と教えてくれた。
現在、和舟の経験がない男性が、一からトレーニングを受け、秋ごろのデビューを目指しているという。
乗船客の寄せ書きノートには「すてきな時間をありがとう。とても気持ちがよかった」など、あたたかいメッセージがあふれる。
地元の努力によって再生した町並み。昭和のあの時、もし埋め立てられていたら、この風景もないし、今回の水辺での出会いもなかったろう。お堀を愛するひとたちに感謝しかない。
筆者:山田耕一(産経新聞)
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