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PALM10とニューカレドニア問題

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首脳会合後、フォトセッションに臨む岸田文雄首相(前列中央)と各国首脳ら=7月18日午後、東京都港区(内閣広報室提供)

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5月13日に始まったニューカレドニア暴動からちょうど2ヶ月後の7月16日。日本政府と太平洋諸島フォーラム(PIF)の共催による第10回太平洋・島サミット(PALM10)が東京で開催された。PIFの正式メンバーとなったニューカレドニアを含む太平洋各地から集まった首脳たちは、PALM10の「余白」でコーカス会議を開催した。

 

クック諸島首相であり太平洋諸島フォーラム議長であるマーク・ブラウン氏が述べたように、ニューカレドニア問題は、PIFの喫緊の課題である。

 

「フォーラム・ファミリーが直面する課題に対処するための新たな機会や革新的な方法について、あらゆる機会を通じて対話し、関与し、議論し続けることが、私たちリーダーにとっていかに重要であるかは、いくら強調してもしきれない。」

 

記念すべき第10回島サミットのマージンで、しかしテーマは決してマージナルではないニューカレドニア問題が、PIFの地域主義と政治的リーダーシップが必要とされる課題として熱く議論された。

 

ニューカレドニアの地図(Via Wikimedia Commons)

 

ニューカレドニアはPIFの問題

 

PALM10開催のタイミングが、オンライン会議では扱えないニューカレドニア問題という緊急で極めて高度な政治的課題について、広大な太平洋に散らばる太平洋諸島の指導者たちが一堂に会し、議論する場となった。肝心のニューカレドニア政府からクロード・ガンベイ自治政府大統領付官房長(特使)が出席。コーカス会議ではニューカレドニアの最新状況が報告され、継続的支援要請があった。PIFはこれを受けて8月末トンガ開催の総会まで現地調査をフランス政府に要請。マージンで行われたが大きな政治的動きである。

 

太平洋島サミットは1997年から開催されているがこのようなサミットのマージンで行われた内容が大きく報道されるまでになったのは初めてことである。

 

これが中国であったらどうであろうか?中国も島サミットに似た会議を開催しているが太平洋には台湾支持国が未だに3カ国(パラオ、ツバル、マーシャル諸島)存在するのでPIFとして招聘はできない。

 

半世紀の歴史を持つ太平洋諸島フォーラムの地域主義と政治的リーダーシップは、王毅外相の安全保障協定を反故にするほどの力がある。日本の島サミットがPIFと共に歩んできたことは日本にとっても大きな国益となっている。

 

ペニー・ウォン豪外相と岸田首相=7月18日(内閣広報室提供)

 

メラネシアスピアヘッドグループが発表した「東京ステートメント」

 

PALM10の「マージン」でさらなるニューカレドニアの議論があった。メランシア・スピアヘッド・グループが「東京声明」を出したのである。わざわざ「東京」を冠した意味は大きい。これもPALM10が東京で開催されていなければできなかったのだ。

 

文書の冒頭には「…太平洋諸島首脳会議(PALM10)開催の機会に、日本の東京で会合し、特にカナキ・ニューカレドニアの問題について議論する」と明記されている。私のようなニューカレドニア問題に長年関心のある日本人にしてみればこの点だけでも歴史的なこととして感慨深い。

 

メランシア・スピアヘッド・グループは1986年創立。メラネシア地域の脱植民地をミッションとした政治的議論を中心とする地域組織である。今回のPALM10に呼ばれたフィジー、パプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、ニューカレドニアがそのメンバーとなっている。ニューカレドニアと言ってもメランシア・スピアヘッド・グループを構成するのは先住民カナクを中心とするカナク社会主義民族解放戦線である。

 

「東京ステートメント」と題された文書は16項目に及ぶ詳細な要請、提案が書かれている。基本はニューカレドニアの独立であり、独立をめぐる3回目の住民投票のやり直しだ。私が目に留めたのはニューカレドニア暴動の背景にある青年問題に関する下記の項目内容だ。

 

  • 9. カナキ・ニューカレドニアの人材育成
  • 9.1 カナキー・ニューカレドニアが完全な主権を獲得できるよう準備する必要性を念頭に置き、MSG事務局および加盟国政府に対し、カナックの若い学生および専門家がMSGの国立大学およびその他の教育・訓練機関で学べるよう、教育基金を設立するよう指示する。
  • 9.2 さらに、我々は、MSG事務局が2024年予算の余剰金から500万バツを使ってこのイニシアチブを開始するよう指示する。
  • 9.3 また、我々はフランスに対し、カナックの若い学生や専門家が、フランスだけでなくMSGの大学や技術機関で学べるよう、研修を促進するよう要請する。

 

ニューカレドニアの公用語は当然ながらフランス語である。フランス語で教育を受けてもフランスにしか職を得られない。即ちニューカレドニアの近くのオーストラリア、ニュージーランドでは職を探すことは難しい。彼らが英語圏のメラネシアの大学で学ぶ意味は、卒業後の機会を大きく広げる意味があるのだ。今回の島サミットで日本がニューカレドニアの件を直接支援する内容はない。しかしソロモン諸島国立大学に5億円規模の水産業研究センター創設が発表された。将来ニューカレドニアの若者たちが学ぶ可能性も否定できない。

 

「第10回太平洋・島サミット」の首脳会合=7月18日午前、東京都内のホテル(共同)

 

フランス太平洋大使Véronique Roger-Lacanのマージン外交

 

第10回島サミット東京会議はさらにそのマージンをニューカレドニア問題に提供した。フランス太平洋大使Véronique Roger-Lacanが大統領外交アドバイザーのMr. Walid FOUQUEと共に東京を訪問。島サミットに参加した太平洋島嶼国の主要メンバーと会議を重ねた様子が本人のツイッターから確認できる。

 

ニューカレドニアとパリは地球の反対に位置する。飛行機での移動は30時間だ。その中間点である日本で両者が協議することを私は前回のJapan Forwardの記事で提案したが、その通りとなった。Roger-Lacan大使には次回は京都でとツイートしたところ、イイねをいただけた。

 

実は上記の「東京ステートメント」には気になる項目がある。5項目にヌメア協定に関与したハイレベルの著名人を任命しろとフランス政府に要請している。確かにRoger-Lacan大使はニューカレドニア問題に過去関与した様子はない。今回のニューカレドニア問題が彼女の肩に重くのしかかっている様子が見える。

 

対話は重要で続けられなければならない。暴力ではなく対話を。

 

第10回島サミットのマージンで、ニューカレドニアをめぐる数々の対話が繰り広げられた。

 

筆者:早川理恵子(太平洋安保・海洋法専門家)

 

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