【主張】中国人学者の起訴 恣意的な拘束は許されぬ
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2年前に一時帰国した中国で、スパイ容疑により拘束されていた中国籍の前北海道教育大教授、袁克勤氏が起訴された。中国外務省報道官が4月22日の記者会見で明らかにした。
昨年3月26日の同報道官会見で、拘束を認めて以来の言及だ。当時、報道官は「袁氏に対する刑事手続き上の権利は十分に保障されている」と述べていた。
だが、袁氏は弁護士や家族と一度も接見が許されていない。起訴事実も明らかになっていない。権利が保障されているとはとてもいえないのである。
報道官は「スパイ犯罪に関わった疑いで国家安全部門が法に基づき調べた。事実を包み隠さず自供し、事実もはっきりしており、証拠も確かだ」と語った。
証拠が確かならばなぜ、起訴まで2年もかかるのか。拘束ありきとの疑念は消えない。中国当局は袁氏の不当な拘束をやめ、直ちに釈放すべきである。家族や弁護士と面会させるのはもちろん、置かれた環境や健康状態などの情報を開示しなければならない。
袁氏は国立大学である北教大に在籍当時の2019年5月、実母の葬儀に参列するため、出身地の吉林省に一時帰国した際に拘束された。今年3月末には20年以上勤めた北教大を定年退職した。一橋大大学院で学んだ後、東アジア国際政治史を中心に北教大で教壇に立ってきた。日本の永住権を有している。
北教大は「事柄の性質上、大学としてのコメントは差し控えたい」としている。日本政府は「関心を持って注視しているが、事柄の性質上、コメントは差し控えたい」との立場だ。注視とは何もせず眺めているということか。
袁氏の問題は、中国当局による人権侵害である。そのうえ、袁氏の学術研究、教育活動は強制的に止められた。袁氏が働いていた北教大という日本の大学の学問の自由、教育活動も侵されたことになる。大学当局はもとより、自由の国日本としても到底容認できない事態だといえる。
政府は袁氏の即時釈放を強く求めるべきだ。袁氏の研究仲間や友人らが「救う会」を結成して活動している。北教大や国立大学協会、日本学術会議はだんまりを決め込んではならない。袁氏を自由にするため率先して声をあげてほしい。
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2021年5月9日付産経新聞【主張】を転載しています
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