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アニメでえぐる北の「真実」 証言紡ぎ描いた強制収容所の実態  清水ハン栄治監督「トゥルーノース」公開

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清水ハン栄治監督

 

北朝鮮の強制収容所の実態に迫ったアニメ映画「トゥルーノース」が全国で順次公開されている。処刑や拷問、飢えに極寒。過酷な日々を生き抜く主人公は在日朝鮮人を両親に持つ少年だ。完成まで10年を要した力作を手がけたのは、在日コリアン4世の清水ハン栄治監督(50)。「私も主人公と同じ運命だったかもしれない」と自らを重ね、「作品を通して、時代の闇に埋もれる人々の存在を伝え、救うきっかけになれば」と話した。

 

 

「自分のルーツを過度に意識しないようにしていた」。半生をこう振り返る清水監督は横浜出身。心ない差別を受けたこともあったものの、実際に出自を意識するのは海外旅行でパスポートを使うときぐらいだったという。

 

その意識が劇的に変わったのは10年前。知人の薦めで強制収容所に関する著作を読み、北朝鮮の過酷な人権侵害や帰国事業のことを知り、衝撃を受けた。

 

 

処刑・拷問・飢え

 

事業は昭和34~59年に行われ、在日朝鮮人・韓国人や日本人妻ら約9万3千人が新潟港から海を渡った。当時は「地上の楽園」と宣伝された北朝鮮だが、大半の帰国者を待ち受けていたのは差別と極貧の生活。映画で描かれる過酷な強制収容所へ送られた人もいた。

 

記憶の線もつながった。幼いころ、母や祖父母の知人や隣人が北朝鮮に渡り二度と姿を見ることはなかったと聞かされたのを思い出した。「悪いことをしたら北の山へ連れて行くよ」。祖父母に、こう諭された記憶もよみがえった。

 

この映画の主人公の少年、ヨハンの両親も帰国者だ。比較的、恵まれた生活を送っていたが、父親が政治犯となり、母や妹と収容所に連行された。父と引き離され、家族を守ろうと懸命にもがくヨハンは、紆余(うよ)曲折を経て収容所の隣人たちを思うようになり、幸福を分かち合おうとする。動く力を失った人に食べ物を分け与え、死の恐怖におびえる人を看病し、慰める。

 

作中には日本人拉致被害者も登場する。死の間際、拉致された事実を明かした女性は、主人公らから童謡「赤とんぼ」を日本語で歌ってもらうと、静かな最期を迎えた。

 

 

苦しむ人を思い

 

収容所の体験者や元看守、脱北者の詳細な証言をもとに構成した脚本の制作は順調に進んだが、政治性もはらむ複雑な主題のためか、資金集めは困難を極めた。海外を拠点に苦心を重ね、アニメーターたちの協力を得て、少しずつ制作を進めた。当初は実写も検討したが「処刑や強制労働など現実はあまりにも凄惨(せいさん)。アニメならば生々しくも、程よい優しさや温かみがあり、幅広い人々に訴えられると思った」。いくつかの伏線が仕掛けられた作品は、心を貫く劇的なクライマックスへとつながっていく。

 

制作を始めたころは40代だった清水さん。「年齢もあり、縁がなかった『わが子』を育むつもりで映画を手がけた」が、日本での公開が始まった直後にわが子が誕生した。「子供に見せたい作品を送り出すという願いが強まった」という。

 

海外の複数の映画祭で賞を獲得するなど、作品は高い評価を受けているが「いまだ苦しむ人を思うと、10年もかかってしまったことが本当に申し訳ない」。そして、「作品が状況を前向きに変えるきっかけになれば」と語った。

 

 

筆者:中村昌史(産経新聞)

 

 

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