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真剣で知的な核抑止力の論議を

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北朝鮮が最近、数回にわたってミサイルを発射し、当然のこととして日本はこれを強く非難した。しかし、北朝鮮が「核保有国」となった現実は容易に変えられない。1990年代以降、関係各国は北が核開発を断念するよう硬軟両様でさまざまな働きかけを行ってきたが奏功していない。

 

長崎市の平和公園で開かれた、核兵器禁止条約の発効から1年を記念する集会=1月22日

 

「現状維持」志向の陥穽(かんせい)と危険

 

奏功しなかった基本的な理由は関係国側の「現状維持志向」にあったと筆者は自らの反省も含めつつ考える。

 

アメリカは朝鮮半島ごときのためにアメリカ軍人の血を流すことに躊躇(ちゅうちょ)があった。中国は統一朝鮮ができるならそれは南、すなわち、韓国主導のものとなり、統一の際には鴨緑江の対岸までアメリカの影響下に入り、北朝鮮という貴重な「緩衝地帯」を失うことになると懸念した。

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韓国はドイツ統一の実例を見て半島統一の財政的なコストの巨大さに圧倒されていた。日本は半島統一に伴って起こりうる巨大規模の難民受け入れ、在留邦人避難の困難さなどを考え嘆息していた。

 

その結果、主要関係国のいずれもが何か大事を起こすより「現状維持」の方がましだという心理状態に収斂(しゅうれん)していった。

 

問題は「現状維持」を確保するためにはそれなりの強固な「力」と「意志」とが必要だということに尽きる。この前提を欠いた「現状維持」は「惰性」あるいは「無策」と同義語になってしまう。これは到底「政策」でありえない。

 

結局、他国には目もくれず自分を一撃で倒す能力を持った唯一の巨大敵性国家アメリカと和平に達してレジームの安泰を守る、アメリカとの関係さえ確保されれば、他国は追随するほかないという考えを変えなかった北朝鮮が核能力保有という今日の状況に至った。

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中国建国70周年軍事パレードで披露された中距離弾道ミサイル(写真:ロイター/アフロ)

 

強固な「力」と「意志」必要

 

台湾や尖閣諸島などの状況についても同様の「現状維持志向」の危険がついて回る。「現状維持」が現実に最善の選択というコンセンサスが日米台に仮にあるのであれば、それを全うするための目に見える「力」(エンフォースメント)と周到で強靱(きょうじん)な「意志」の裏付けが必要だ。

 

無論「力」、「意志」と言ってもそれは必ずしも全て「攻撃的」なものであることを意味しない。

 

「抑止力」は正にその例である(筆者はこの「抑止力」にはそれを実効的なものたらしめるための一定の「防御的打撃力」=具体例は多数の潜水艦、艦船搭載対艦・対地巡航ミサイルなど=が含まれると一貫して考えている)。

 

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わが国の場合、必要な抑止力はおおむね(1)日本自身の持つ抑止力と(2)日米同盟の下、アメリカが提供する抑止力-の総和であるといえる。

 

その中で最後のよりどころとなるのが「核の抑止力」であるという現実は変わっていない。

 

今、日米の識者の多くがバイデン政権の核政策に関心を持っている。公式文書で内容が明らかにされるが、筆者はアメリカの核政策に「核の先制不使用」や「核は核に対してのみ使用する」と言った内容が盛り込まれるのは抑止政策上、甚だ好ましくないと考える。

 

いずれにせよ、国連の常任理事国5カ国(中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカ)に加え、インド、パキスタン、北朝鮮が核武装し、イランが加わり、サウジアラビアやエジプトの核武装やテロリストの核保有の可能性が懸念される中、日本は自らの核政策を本格的に考えざるを得ない。

 

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日本は核拡散防止条約(NPT)に最も忠実な非核保有国だが、NPTの信頼性は揺らぎつつある。核保有国、とりわけ中国の核戦力増強はNPT6条の規定に反する行動だ。印、パ、北朝鮮の核化をNPTは止められなかった。

 

 

 

まず有識者による非公式論議

 

アメリカの核政策が中露などとの対比で過剰に抑制的なものとなる場合、核保有国に周りを囲まれた日本はいかにして有効な抑止力を維持できるのか。

 

筆者は日本が一足飛びに核武装すべきだと結論づけてはいない。現在の非核三原則(持たず、作らず、持ち込ませず)を「持たず、作らず」に絞る(あるいは3項を「撃ち込ませず」に替える)だけでも相当な抑止力の向上が見込まれると思っている。

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ともあれこれは子々孫々に関わる問題であり、何らの前提条件も付さない、真剣で知的な核論議が行われるべきである。最初から公開の議論に付するのではなく政府の認証を得た有識者、専門家の間で非公式の議論がまず行われ、然(しか)るべき時点で公開の論議に付されるのが実際的だと思う。

 

バイデン政権の対中認識を懸念する向きもあるが、一方で近年のアメリカ全体の対中認識はようやく1940年代末にコンセンサスが形成された対ソ連認識と同様の流れになってきたとのアメリカ人識者の分析もある。

 

いかなる状況下にせよ、真剣で知的な核抑止力の論議が日本で本格化しているという情報が流れるだけでも「抑止力」の向上に資すると筆者は思量する。

 

筆者:加藤良三(元駐米大使)

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2022年2月23日付産経新聞【正論】を転載しています

 

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