欧州を助ける日本の原発再開
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世界的なコロナからの回復とウクライナ問題の発生により、世界の資源価格上昇が大きな問題になっている。この問題の根底には世界的なエネルギー不足があり、日本にはそのほかに原発の停止問題という独自の問題が存在する。
再生エネルギーの問題
また、現在、日本の各家庭は割高な再生エネルギーの買い取りのために、「再生可能エネルギー賦課金」を払わされている。太陽光など再生エネルギーの普及に伴い、どんどん膨らみ続け2021年度には1世帯あたり年間1万2096円にまで上がった。しかし、この数字は欺瞞である。これはあくまでも家庭の負担分だけであり、企業や社会インフラなどの負担分は除外されている。これらを含めると、国民一人当たり年間約2万円以上ということになる。4人家族の標準世帯で8万円もの再エネ賦課金を払わされている。
問題はこれだけにとどまらない。アメリカの約3倍、中国、韓国の約2倍という高い産業用電力は企業の国際競争力を奪い、日本での物の生産を難しくし、社員の給料を引き下げる大きな原因にもなっているのだ。当たり前の話であるが、グローバル化した経済において「一物一価」の原則はほほすべてのものに当てはまる。これは同じ目的で作られたものの値段は最終的に同じになるという基本的な経済原則である。その上で、物の製造単価は、原材料費+光熱費+人件費で決まる。基本的にほとんどの原材料は国際価格であり、どこに国も変わらない。違いがあるのは電力代など光熱費と人件費であり、光熱費が高ければその分人件費にしわ寄せがいく、又は、市場から淘汰されるわけだ。
また、多くの再生エネルギーにはもう一つの問題もある。それは供給が不安定であり、どんなに数多く増設しても、安定電源になりえないことである。太陽光は日照がなければ発電せず、風力も風がなければ発電しない。つまり、安定した電力環境を作る上では、最低の想定発電量しかカウントできないのである。しかし、その一方で多大な設備投資費用はかかるわけだ。
脱原発国ドイツの欺瞞
脱原発を進め太陽光と風力発電を拡大し続けたドイツを優等生に取り上げる人やメディアがあるが、実はドイツの再生エネルギーは欺瞞に満ちたものである。ドイツはヨーロッパの中で電力輸出国である。これは事実だが、それには大きなからくりがあるのだ。電力というのは必要な電力量を少しでも割り込むと「ブラックアウト」と呼ばれる電力網全体の大規模停電が発生する。ドイツは全体としては輸出国であるが、日照の少ないシーズンと時間、風が吹かないシーズンと時間は、圧倒的に電力が足りなくなる。これをフランスなどからの電力融通で補っているのである。ご存じのようにフランスは原子力発電大国であり、電力量の7割以上を原子力発電により賄っている。つまり、ドイツの自然エネルギー依存は原発により成立しているわけだ。
また、ドイツの脱原発は、安全保障にも大きな影響を与える結果になっている。ドイツは脱原発を進めるため、天然ガスによる火力発電を拡大していった。そのためには安価な天然ガスが必要であり、これをロシアからのパイプライン供給に依存したわけだ。タンカーなどで輸送するために液化する必要もなく、輸送コストも安いからである。わかりやすく言えば、「プロパンガス」と「都市ガス」の違いといえる。プロパンの場合、ボンベの中にガスがある限り、ガスは止まらない。しかし、都市ガスは元栓が閉まってしまえば即供給が止まる。その元栓を握っているのがロシアという構図になっているのだ。
だから、ドイツは2014年、ウクライナ南部のクリミアを併合したロシアへの制裁に否定的であった。今回のウクライナ問題でも、当初はロシアへの制裁に否定的な態度であったわけだ。また、クリミア問題発生後も、ロシアから新たなガスパイプライン「ノルドストリーム2」を推し進めたのもドイツであった。これはドイツの産業界が競争力を維持するために安価なガスが必要だったからである。
原発で競争力取り戻す
しかし、今回のウクライナ問題はこの前提を大きく覆すものになった。戦争の現実の前にはドイツも逆らえなかったのである。今回の欧州のロシア産天然ガス依存からの脱却は、世界のエネルギー事情を大きく変えるものになる。
また、世界的に見れば、欧州のガス不足が解消されない限り、世界のガスや石油の価格は上がり続ける。当然、それは日本のエネルギー価格と火力に依存する電力価格に跳ね返ることになる。これを解消するためには、再生エネルギーの計画を一時的に凍結し、安全な原発を再開し、発電コストを引き下げるしかない。また、日本の天然ガス需要を減らすことは欧州へのガスの振替を可能にすることを意味し、ウクライナ問題の解決にも一役買うものになる。
原発の再開は、今の日本のエネルギー事情を大きく改善するだけでなく、産業界の国際競争力を取り戻す原動力にもなる。再生可能エネルギーを完全に否定はしないが、改めて負担を含めた総合的な議論をするべきである。そうしなければ、ものづくり国家日本は亡国の道を歩み続けることになる。
筆者:渡邉哲也(経済評論家)
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