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海外では日本のポップカルチャーが注目されることが多いが、古い伝統芸能を含んだ日本のお祭りも奥が深く新鮮に感じられている。
ドイツのライン河の水面に映った大きな花火の光は、欧州でおそらく最大の日本祭、今や恒例となっているJapan-Tag Düsseldorf/NRW 2023のクライマックスであった。ドイツ北西部に位置するノルトライン・ヴェストファーレン州は州都デュッセルドルフを含め、人口約1,800万人とドイツで最も人口の多い地域である。この一帯にはドイツの主要な産業が集まるだけでなく、欧州の隣国との往来も盛んな交通の要衝である。
デュッセルドルフにおける在留邦人の歴史は長く、今年で20回目となる日本祭でも積極的な役割を果たしてきたが、今回も和太鼓の演奏、書道の展示、そして来場者の和装体験を手伝い写真撮影を行っていた。
ドイツ人は一般に生真面目、実直で堅実といわれているが、今回のイベントの65万人もの来場者が示すとおり、楽しむことも知っている。この日本祭には欧州各地からもコスプレイヤーが集まってくる。
戦国時代の装いの参加者もいるが、細部までかなりこだわったようで、写真の鎧武者の兜を飾るのは何と明智光秀の桔梗の家紋である。この辺りの歴史は本能寺の変を含め、いまだに不明な点が多い。しかし、ここは欧州であり武者姿をしている参加者がどうしてもバイキングに見えてくる。
タイ山岳地帯の渓谷で見つけた日本文化
一方、東南アジアに目を転じるとタイ北部に「北の薔薇」とも呼ばれる古都チェンマイがあり、その伝統と魅力については以前の記事でロイクラトン(灯明祭)に簡単に触れた。この地域の山は多様な山岳少数民族も住んでいる。
その一つがモン族であり、中国南西部の苗族(Miao Zu) に近いとみられている。この呼び名はタイ語の「ネコ」(Maew) に響きが似ているため、彼らはこれを避けて自らを「モン」族と呼んでいる。色彩豊かな刺繍と細かな装身具でも知られているが、彼らのお祭りが観光客向けにほとんど宣伝されないこともあり、モン族のイベントは開催場所や日時が特にわかりにくい。
街中各所で聞き込みをして、ようやくたどり着いたのはチェンマイから離れたメーサー渓谷だったが、民族衣装のここで少女たちが幼い妹たちが見つめる中踊っていたのはAKB48のシングル「恋するフォーチュンクッキー」だった。
タイのアイドルグループ
チェンマイには、AKB48の姉妹グループCGM48がすでに活動している。私は当初、既存の日本のアイドルグループの単なるコピーだと思い込んでいた。チェンマイの知人がこの動画を送ってくるまでは・・:
歌はSKE48の「賛成カワイイ」のタイ語版で、今年のソンクラーン(水かけ祭り)に合わせてリリースされたようである。北部タイの民族衣装姿のCGM48は地元チェンマイによく溶け込み、姉妹グループにはない独自の魅力も感じられる。タイの日常生活で特に重視されるのは「サヌック」(人生を楽しむこと)と「サバーイ」(心地よい、快適、スムーズ)だが、CGM48はまさにこれを実践しているようで、日本の姉妹グループよりもさらに元気でやんちゃに見える。
古典が斬新で感動する
デュッセルドルフからチェンマイまで、日本のポップカルチャーは世界中に波及・拡散しているが、海外でまだあまり知られていないような伝統芸能にも焦点を当ててみたい。この中には何世代にもわたって受け継がれ,趣があり奥が深いものが多い。
伝統芸能が披露される日本の祭りの写真を海外の知人に送る度に、ほぼ毎回それらの意味や開催意義を尋ねられる。見た目の華やかさもあるが、それ以上にもっと深く知りたがっているのだ。古典的なものが実は斬新に見えて、感動を与えることも多い。
恵みに感謝する
神社に参拝して巫女神楽を見られたら、幸運かもしれない。雅楽の音色に合わせた優雅な所作のこの踊りには平和への願いや日頃の恵みに感謝する気持ちが込められている。巫女神楽は季節の到来を告げるものでもある。巫女の花かんざしや手元を見るとよい。早春には梅、春の真っただ中には桜、また初夏には藤、さらに秋以降は菊の花を飾っていることが多い。
巫女が手に持つ神楽鈴には3段の輪があり、上から鈴が3つ、5つ、7つついており、その形が米または果実などに近いことから自然の恵みや実りをあらわしているとされる。
巫女神楽は古来のものだか、近代において新たに加えられたものもあり、その一つが「浦安の舞」である。「浦安」とは「心の安らぎ」の意味で、昭和15年 (1940年) に行われた「皇紀2600年奉祝会」合わせて作られた神楽舞である。昭和天皇がお詠みになられたこの御製が歌詞になっている:
「天地(あめつち)の 神にぞ祈る 朝なぎの 海のごとくに 波たたぬ世を」
それでも、巫女神楽は日本の歴史と同じくらい伝統があると考えられており、神秘的なオーラが溢れている。
「おかげさまで」の深い意味
奈良のある神社で行われた祭典で、「おかげさまで」という言葉の持つ意味合いについて宮司様からお話があった。英語の "Thanks to you" にやや近いが、意味合いはそれよりもずっと深い。自然の力や周りの人からの支えによって生かされていることに感謝する気持ちなのだという。宮司は、神社のあらゆる祭典にはこのような意味合いが込められており、それがもっと広く知れわたることを期待したいと強調した。
巫女神楽も、宮司のお話も、比較的小さな神社では身近に見たり聞いたりできるのだが、大きな神社では祭典が拝殿奥で行われ、多くの場合参列者は崇敬会会員または氏子に限られる。
来訪者たちに伝える
神社が崇敬会や氏子など地域社会に支えられている以上、このことは理解できるのだが、部外者も祭典についてもっと知る機会がほしいのではないか。
たとえば、修学旅行を月次祭または例祭などに合わせて行えば、祭典の開催意義などが再認識されるようになり、伝統が次世代により確実に受け継がれることになるかもしれない。
さらに祭典の会場後方の席に日本語が母語ではない参列者も受け入れ、スマホとイアホンを活用して同時通訳で解説することもできるであろう。もっと大胆だが、外国のナショナルデーに合わせてオンラインで結び、その祭舞楽を披露して祝意を伝えてはどうか。きっと大きな反響があるにちがいない。
宮中舞踊における国際的影響
神社や寺で奉納される舞楽は古来から伝わる宮中の舞踊で、奈良の大仏の開眼法要のために736年に大陸から日本に渡来した仏教僧によって伝えられたとされている。
写真は「迦陵頻」(かりょうびん)という演目の舞楽で、語源はサンスクリット語のkalavinkaに由来する。仏教の極楽浄土に住むといわれる縁起のよい伝説上の鳥で、殻の中にいるときから鳴き出し、美しい声で仏の教えを説くともいわれている。
もし、これに東南アジアの影響が感じられるならそれもそのはずである。「迦陵頻」はかつてインドシナ半島を支配し、海上航路でアジア各地とつながっていたチャンパ王国から伝来したとされる「林邑八楽」(りんゆうはちらく)の一つである。その後東南アジアの支配勢力は度々交代・変化し、かつて海上交易によって繁栄した王国の末裔は現在ベトナムやカンボジアの少数民族である。しかし、舞楽はいにしえの日本とアジア大陸との結びつきを示す証拠である。
神楽を舞う現代の女性たちを祝う
ここで早回しで2023年に戻ろう。JAPAN Forwardは今年の3月、国際女性デーに合わせて各分野で著しい功績のあった女性に関する記事を掲載した。
伝統芸能を舞台上で演じ、または舞台裏で支える女性たちも、文化を伝承する功績を認められて将来このリストに加えられるようになるかもしれない。伝統芸能が海外でさらに注目されるようになれば、女性たちにはもっと大きな役割が待っている。
神社仏閣は祈りの場所である以上、畏敬の念、厳粛さや格式は重要である。しかし同時にこれらは一般人が格調高い伝統芸能に接し、自国の文化を再認識する大切な機会を与えてくれる場所でもある。
現在のように変化が目まぐるしく、不確実なご時世の中、祭典の開催意義などをもう少しわかりやすく説明し、幅広く積極的に働きかければ、より多くの人を取り込み感動を与えられるかもしれない。
著者:栗山薫(ジャーナリスト)