
核融合の燃料を再利用するために抽出するポンプなどの装置=2月7日、東京都大田区(松田麻希撮影)
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脱炭素に貢献し、燃料が枯渇する心配がない「夢のエネルギー」として、核融合への期待が高まっている。米国の富豪らが相次ぎ投資し、世界的に研究が加速する中で、核融合を実用的なエネルギーとしていく上で欠かせない技術が、平和島で開発されている。京都大発の核融合スタートアップ企業、京都フュージョニアリング(大田区)が1月に開設したできたての拠点を訪ねた。
手つかずの領域に注力
核融合エネルギーは、水素などの軽い原子核同士を衝突させ、重い原子核を生み出す際に放出される膨大な熱を発電などに利用する。太陽が輝き続けているのと同じ仕組みであることから、「地上に太陽を作る」と例えられる。
燃料となる水素の仲間(同位体)、重水素と三重水素(トリチウム)は、海水から無尽蔵に取り出せるとされる。二酸化炭素を排出せず、高レベル放射性廃棄物が生成されない利点もあり、次世代を担うエネルギーとして開発が急がれている。
核融合反応そのものを起こす技術に注目が集まりがちだが、商用レベルで成立させるには、熱を回収して電力などに転換したり、燃料を効率的に使ったりといった周辺技術を固めることが必要不可欠で、京都フュージョニアリングはここに注力している。
同社執行役員の中原大輔さんは「世界中のスタートアップなどが2030年にも核融合を実現すると言っているが、ほとんどだれも手を付けていない世界的な『ミッシングパーツ』(欠落部品)がある。そこにわれわれは取り組んでいる」と語る。

燃料の循環システム
実は、核融合では投入した燃料のおよそ9割が反応しないため、炉から回収して再利用を繰り返す必要がある。新拠点では主に、このための燃料サイクルシステムを開発しており、核融合反応は起こさない。
また、弱い放射線を出すトリチウムはこの拠点では扱わず、水素と重水素で検証しているため、放射能などへの特別な警戒は不要だ。
開発現場を見せてもらうと、真空の炉から水素ガスを抜く強力なポンプをはじめ、いくつものポンプが連なる巨大な装置が横たわっていた。ポンプの先には、ガスから不純物を取り除き、水素同位体を抽出する装置が続いていた。
さらに別のエリアでは、取り出した水素同位体を蓄え、必要なときに適切に燃料として供給する装置や、燃料サイクルの過程で発生する水からトリチウムを分離して安全に排水できるようにする装置などが開発されている。
東京の拠点で機器を開発した後、実際にトリチウムを使った検証は、使用が許されているカナダ・オンタリオ州の拠点で来年から始める計画だ。
世界最速で発電へ
同社は、京大で長年、核融合炉の研究を続けていた小西哲之(さとし)最高経営責任者(CEO)らが令和元年に創業した後、ビジネスを推進するため、東京・大手町に本社を移した。
京都や兵庫などにも拠点を設けて、核融合反応を起こすためのプラズマを加熱する技術や、炉心から効率的に熱を取り出し発電するシステムを開発している。各地で行ってきた燃料関連の研究を集約し、本社も再移転したのが平和島の新拠点だ。
国内のみならず、欧米や韓国、ニュージーランドと世界中から人材が集まり、同社で活躍。国内外の企業や研究機関との共同研究も進む。
「核融合プラントを実現するには、われわれと組むのが近道だと世界的にも認識されてきている」と、中原さんは胸を張る。
核融合発電は技術的な難しさから、実現は「永遠に30年後」「逃げ水」などと揶揄(やゆ)されてきた。しかし、核融合反応のその先を見据えた開発を世界に先んじて進める拠点を見学して、実現が少し身近に感じられるようになった。湾岸部の倉庫街の一角には、世界最速で発電を実現させ、自分たちの手で新エネルギーを世に送り出すとの気概があふれていた。
筆者:松田麻希(産経新聞)
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