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「2隻のプリンセスの物語」(下):グランド・プリンセスのコロナ対応

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(上)から続く

 

グランド・プリンセス(GP)は、ダイヤモンド・プリンセス(DP)が横浜に到着した8日後の2月11日に、サンフランシスコからメキシコに向けて出航した。乗船前に感染していたと見られるカリフォルニア在住者が乗船していた。

 

この乗客は同船でメキシコへ行き、サンフランシスコへの帰路で発症、乗船中に呼吸器系の問題が発生した。2月27日にカリフォルニア州ローズビルのカイザーパーマネンテ病院に搬送され、3月2日にCOVID-19と診断。3月4日に死亡した。GPのメキシコクルーズの乗客2人目も3月5日に死亡した。

 

GPは2月21日、つまりDPが横浜に到着してから18日後にサンフランシスコに戻り、2000人以上の乗客乗員に対して検査なしですぐに帰宅することを許可した。

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ほとんどの乗客を降ろした数時間後、GPはサンフランシスコで新しい乗客を乗せ、同日中に再び出航した。メキシコクルーズからの62人の乗客、大部分の乗員、そして2361人を上回る新たな乗客がハワイに向かった。

 

 

GPのコロナウイルス封じ込め対策

 

GPはハワイの後、サンフランシスコに戻る前の3月7日にメキシコへ寄港する予定であった。だが、米国水域に近づくと、何人かの乗客乗員がインフルエンザのような症状を示し始めた。そのため、メキシコ寄港を中止し、サンフランシスコ沖に停泊する命令が下った。

 

3月3日(GP 1日目)、船に対して隔離命令が出たため、乗客を客室に留め、乗員の移動を最小限に抑える必要があった。

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PCR検査キット数十セットがヘリで船に届けられ、2日後にはその多くが陽性反応を示した。確認された最初の21人の陽性者のうち19人は乗員であったため、2回の航海計22日間でウイルスがまず乗員に、そして乗客に広がるというリスクは極めて高かったといえる。

 

3月8日(GP 6日目)、オークランド港の未使用エリアにおける安全柵の設置や医療関係者の招集などの準備が整うまで、GPは沖合約16キロ地点で待機していた。米国疾病予防管理センター(CDC)が承認した当初の予定は、全乗客乗員に対してPCR検査を含む「健康診断」を実施し、その後3月9日(GP 7日目)に下船を開始するというものだった。

 

マイク・ペンス米副大統領は「船を非商業港に移動するための計画を立て、今週末実施する」と発表。「全乗客乗員(乗客2421人、乗員1113人)がウイルス検査を受ける」とした。

 

この計画の骨子はこうだ。まず医療ニーズが高い人々を優先する。次に、カリフォルニア州の住民962人が下船し、カリフォルニア州トラビス空軍基地に移送され、14日間の隔離に入る。続いて、それ以外の乗客が下船してオークランド空港にバスで移送、そこからカリフォルニア、テキサス、およびジョージアの米軍基地に飛び、14日間の隔離に入る。

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しかし、カナダ人グループ約200人が、直ちにチャーター機で出発する必要があった。しかも未検査の状態でだ。カナダ人グループは、オンタリオ州郊外のカナダ軍基地に移動し隔離に入った。142人の英国人グループも、チャーター機での移送となった。これも未検査だ。輪をかけて驚くべきことに、その後の隔離もしないという。

 

2421人の乗客全員が下船したのは、3月14日(GP 12日目)であった。陽性者を含む乗員1113人は、全員船内に留まるように命じられた。直ちに沖合で隔離され、船内で処置を受けることとなった。

 

最終的に、CDCの計画は土壇場で変更された。「健康診断」は、単に健康状態のアンケートと体温測定のみになったのだ。下船前にPCR検査を受けた乗客がいなかったことは、驚愕すべきことである。

 

ある夫婦は、下船についてロイター通信のインタビューに答え、次のように報道された。

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ドン・デイビス氏とローラ・デイビス氏、そしてドン氏の高齢の両親は、指示に従って24時間分の服と必需品のみを携えて、バスでオークランド国際空港に向かった。サンディエゴのミラマー海軍基地に空路移動した480人のうちに数えられている。

 

ローラ・デイビス氏によると、船から基地まで付き添う保健福祉省管轄の人員は訓練も装備も不十分のようだったとのこと。

 

彼女は、金曜日の時点で「乗客は9日前に船内で配布された『汚れた、ウイルスまみれの』サージカルマスクをそのまま着用している」と言う。自身はICUの看護師として、勤務中には30分ごとにマスクを交換するようにしているとのこと。

 

カリフォルニア州トラビス空軍基地では、数百人もの人々の隔離期間が何の説明もなしに早めに切り上げられた。カリフォルニアで隔離されたGP乗客の半数以上がPCR検査を拒否したが、検査した乗客のうち103人は陽性であった。200人以上は、検査を受けたにもかかわらず結果を待たずに帰路へ。さらに、300件以上の結果が保留となっていた。

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CDCは、GPでの感染者数の開示を拒否し、結果は各個人の隔離が行われた州の保健省に通知するとだけ述べた。

 

 

DPとGPの対処における相違点

 

2隻の船舶における重要な違いの1つはタイミングだ。GPの事例はDPの1か月後に発生。その時点で、ダイヤモンド・プリンセスで何が起こってどう対処されたかについては周知されていた。また、潜伏期間、症状、および感染経路に関するより多くの事実がすでに焦点となっていた。米国は、検査キットを用意し、武漢から退避した米国人たちが滞在していた施設にDPからの帰還者の隔離エリアを設けるまでに、さらに4週間という時間的余裕もあった。

 

特筆すべきことは、ウイルスが最初に確認されたときから客室隔離が始まったときまで、最初の9日間における対応に関して、2隻の船で大きな違いがなかったことである。船内隔離を要された乗員に関して、日本は感染した乗員を下船させて日本国内の病院で治療を受けさせたのに対し、米国は感染した乗員をも船内隔離としたという違いはあるが、それ以外の扱いは同じであった。

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2隻の対応に違いが見え始めたのは10日目からだ。

 

ダイヤモンド・プリンセスの場合、まとまった人数の下船は15日目に始まり、全乗客の下船は17日目までを要した。下船前に全乗客乗員に対してPCR検査を実施。19日目から、DPに残された700人の乗客が、バスで東京周辺のホテルや類似施設計12箇所に移送され、隔離に入った。

 

一方、グランド・プリンセスの場合、PCR検査を実施しなかったにもかかわらず、全乗客の下船まで3日間、12日目までを要した。GPの乗客は、客室隔離は最大10日間であったが、下船する乗客や、バスと飛行機で24か所以上へ移動する人々で非常に混みあっている状況であった。

 

PCR検査が(速度重視で)実施されていないということは、GPの乗客、医療チーム、および移送スタッフが乗客移送段階で感染するリスクとともに、感染者が隔離施設のみならず、米国全土やカナダ、英国にまでもウイルスをまき散らしてしまうリスクを米国当局は甘受したということだ。

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GP乗客の下船前にPCR検査を行わないという米国当局が土壇場で下した決断は衝撃的だ。これは、広範に影響を及ぼし得るリスクを許容する意思を示したに他ならない。米国を拠点とするクルーズ業界は、乗客を船に閉じ込めることで、感染と死の実験場化しているという批判にさらされた。また、GPがDPのように世界中のメディアからの注目を浴びないよう必死であった。

 

GPの状況に対して迅速な解決策が求められている中、PCR検査をするとなると下船プロセスまでにさらに3?4日かかってしまう。ドナルド・トランプ大統領のキャンペーンにクルーズ業界が多大なる貢献をしていたことも、米国では周知の事実であった。

 

 

ルビー・プリンセス

 

本記事の範囲外ではあるが、プリンセス・クルーズ社の別の船舶、ルビー・プリンセスの動向にも目を向ける必要がある。以前の航海で新型コロナウイルス感染者が158人も確認されたにもかかわらず、どういうわけか乗客にリスクを通知することもなく、その後3月8日(GP 6日目)にシドニーからニュージーランドへ11日間の往復航海に出たのだ。

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本記事執筆時点で、豪州、米国、およびニュージーランドでさらに852人の感染が確認され、少なくとも23人の死亡が記録されている。これらは全てルビー・プリンセスに起因するものだ。カナダと英国でも感染が確認されている。700人以上の感染者と21人の死者がこの船によるものであった豪州では、警察が殺人事件として捜査に当たっている。

 

米国では不法死亡の訴訟が係属中だ。また、シドニーからニュージーランドへのクルーズに参加していた人であれば誰でも名を連ねられる集団訴訟が豪州で提起されている。

 

 

2隻のプリンセス―最終的な数字

 

ダイヤモンド・プリンセスの場合、PCR検査により、最終的には乗客乗員に厚生労働省職員14人を含む3711人のうち712人が陽性であることが確認された。そのうち、50%以上が無症状だ。陽性者全員が治療を受け、しかも治療に3か月以上かかったケースもありながら、費用は全額日本が負担した。陽性者のうち、698人が完治。日本は、DPの乗客乗員に対して、日本での広範な医療処置や関連する隔離費用を請求したことはない。

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残念なことに、日本国内ではこれまでに13人の死亡が記録されており、豪州では乗客1人が帰国した後に再発し、死亡している。7月3日の時点で、乗客1人が未だに深刻な状態にあり、日本で治療を受けている。

 

グランド・プリンセスの場合、メキシコ-ハワイ間のクルーズに関連した最終的な感染者数と死者数をまとめることは、困難を極める。GP乗船中に感染した陽性者数を確認できるようなPCR検査がされていないためだ。その後の感染と死亡については、個人が隔離されているまたは居住している管轄地域が独自に報告しているものである。DPで行われたように、船関連としてデータがまとめられていない。

 

問題は、下船時にPCR検査をしなかったこと以外にも広範におよぶ。ワシントンポストは次のように報道している。

 

数百人もの乗客が検査を拒否したため、乗船中の感染者数はおそらく不明のままとなるであろう。基地に移送された乗客(最初は2000人近くだったが、その後数百人が早期に帰国し自国で隔離)によると、検査は任意であり、無症状の人には勧めないと言われたという。

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カリフォルニア州保健福祉局は後に、乗船中に感染が確認された最初の21人以外に、103人以上の乗客がカリフォルニア州の隔離施設に到着した後陽性と判定され、数百人分の検査結果がまだ保留中であると発表した。驚いたことに、その後最新情報は出されていない。テキサス州とジョージア州では、感染者数と死亡者数の発表はされていない。

 

これまでに発表された内容に基づくと、感染者数は250人以上、死亡者数は7人以上となる。またDPとは異なり、GPのクルーズに関しては、プリンセス・クルーズ社に対してGP乗客が12件を超える不法死亡および過失訴訟を提起し、米国の裁判所で係属中である。

 

 

まとめ

 

DPの隔離が始まってから1か月後、グランド・プリンセス船上で発生した感染蔓延における乗客への対応について、日本における教訓を活かすことはできなかった。それどころか、米国では単に乗客に健康アンケートを記入させ検温しただけで、無症状の多くの人を帰途に就かせてしまったのだ。米国は、カナダや英国など多数の乗客がいる国の政府に対して、直ちにチャーター機で自国民を退避させるよう要請した。

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日本は、全乗客乗員に対し、分け隔てせずに世界レベルの医療を提供し、誠実な人道的対応を行った。PCR検査キットは2月初旬には非常に不足していたが、日本でできる検査を日本人が受けられるようになる前に、DPの乗客乗員に優先して提供したのだ。さらに、日本が行ったDPへの対応により、50か国を超える国々のほとんどでウイルスが発生する数週間も前に、またそれらの国で準備が整う前に、ウイルスが伝播してしまうことを防いだといえる。

 

最終的な結論はこうだ。DPでの隔離は、乗客乗員間で新たな感染が広がることを阻止または緩和させたという面で、合理的に予想できるよりもはるかにうまく機能したといえる。マスク、身体的距離、換気の悪い場所における密集回避は、「日本モデル」の一部である「3密防止」の根本にあり、このパンデミックにおいて、ウイルス対処に依然苦慮している世界の人々にとって貴重な教訓となるだろう。

 

著者:内藤慧人
元国際ビジネス弁護士。上級管理職を歴任し、日本、インド太平洋地域、また世界中の複数の米国および日本の多国籍企業において主要なビジネスユニットを率いている。日本で40年以上生活、仕事をし、2015年に帰化。

 

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