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コロナの次に備え司令塔を:塩野義製薬社長・手代木功氏

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COVID drug

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「国産ワクチン」開発、新基準が必要

 

今回の新型コロナウイルスをめぐる事態は国家レベルの危機であり、安全保障の問題だ。日本のいまの制度では限界がある。何より司令塔不在を強く感じる。

 

昨年、感染症の司令塔を防衛省内に設置し、防衛という考えの中で対処したらどうかと提案したことがある。少なくとも国家安全保障会議(NSC)のように内閣傘下に医学、医療の危機が起こったときの指揮系統、体制をつくるべきだろう。今回はウイルスという目に見えない敵だが、国全体、地域に対して壊滅的な打撃が与えられている。

 

 

消火器モデル

 

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次の感染症パンデミックは必ず来る。何かは分からない。例えばマラリアかもしれない。国民の意識があるうちに次に向けた対策を示すべきだ。ワンタイムのカンフル剤ではダメ。予算も本予算でつけて絶対に削ってはいけない。

 

私は「消火器モデル」と言っている。使いたいときになければ困るが、2年間で1回も消火器を使わなくても怒る人はいない。感染症における治療薬やワクチンも同じ。感染症はいつ、何が流行するのか分からない。「平時」から「戦時」に備えなければいけない。

 

現在接種されているメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは人類に初めて使われた技術。有効性、発症予防はある。新しい技術をスピード感をもって(承認、実用化まで)容認したことはすごい。一方で、リスクと利益を検証するのはこれからだ。

 

その中で国産ワクチンの遅れが指摘されるが、わが国が抱えている諸問題が改めて明らかになった。

 

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例えば、ワクチンの開発・実用化までのスピード。米国では緊急使用許可という手続きがあり、(企業、行政は)そのルールに従い、迅速な対応をとった。一歩ずつのステップを踏んで開発するという平時のプロセスではない。戦時の考えだろう。日本は医療や産業界、審査する側に平時の意識が強く、新たな仕組みでやろうという考えが薄いように思う。戦時にはそこを切り替える必要がある。

 

当社が開発している組み換えタンパクワクチンは従来の製法で、製造法に基づき、強い副反応を示さない「安全性」のデータが10年近く積み上がっている。現状、私たちの臨床試験でも安全性が非常に高い。

 

 

サブスク戦略

 

国内メーカーだから、ワクチンと患者のデータ共有などを全部セットで提供できる。接種の人数、発症の有無など、かかりつけ医ときめ細かい情報共有ができ、データの蓄積も可能。それも国産ワクチンの強みだ。現状、年内の供給開始を目指しているが、大規模な臨床試験の実施が世界的に困難になっているため、有効性と安全性を確認する新しい手法について国と協議を進めている。

 

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前述の消火器モデルで言えば、感染症蔓延(まんえん)が懸念される多剤耐性菌の抗菌薬の開発・実用化がよい事例になる。当社では、消火器モデルと同じような仕組みのサブスクリプション(定額課金、サブスク)という戦略を進めており、多剤耐性菌の抗菌薬について、英国とサブスク型の支払いで契約を結んでいる。

 

どういうことかというと、感染症は今年1千万人患者がいたとしても、来年はゼロの可能性もあるため、生産計画を立てることが難しい。毎年一定の金額で契約し、必要なときに提供を受ける権利を買ってもらう。感染症薬メーカーとしては常に工場を稼働でき、生産量を維持できる。従来にない、このような考え方に、他国は関心を示している。

 

中国は今回、(こうした動向を)よく学んでいて、予算的にも手厚くしている。それらを含めたワクチン外交で、アフリカや東南アジアを押さえている。

 

手ごわい日本変異株ができたとき、海外企業は対応してくれるでしょうか。国内に研究・開発・生産の基盤をもつこと。毎年一定量を確保し、幸いにも国民が不要となった場合、政府開発援助(ODA)で必要な国に回せば、外交上のメリットにもなる。

 

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【プロフィル】手代木功(てしろぎ・いさお)
宮城県生まれ。昭和57年、東京大薬学部卒、塩野義製薬入社。平成20年から同社社長。30年から日本製薬団体連合会会長。

 

 

2021年4月26日付産経新聞【「科学」の視点から】を転載しています

 

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