【主張】G20サミット 対露批判後退を憂慮する
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インドの首都で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が首脳宣言を採択した。焦点だったロシアによるウクライナ侵略をめぐる文言では、昨年の首脳宣言と比べてロシア批判のトーンが弱まった。
議長国インドのモディ首相が、宣言が採択されない事態を避けるため、G20加盟国のロシアに配慮した結果だ。
ウクライナ外務省報道官が「G20が誇れるものは何もない」と失望を表明したのは当然だ。1年半以上に及ぶ、ロシアの暴挙を正面から批判できなかったことは、G20の存在意義を問う事態である。このような宣言の採択を「成果」ととらえることは難しい。
今年の一連のG20関連会合では、ウクライナ侵略をめぐる表現でロシアが反発し、共同声明を一度も出せない状態が続いていた。首脳会議でも同様の事態となれば、インドにとって外交的失態になると考えたのかもしれない。
モディ氏が、首脳宣言の採択を最優先した結果、昨年の首脳宣言にあったロシアへの撤退要求に関する文言や「ロシアの侵略」との表現は消えた。代わりに「ウクライナでの戦争を巡る事態に対する見解や評価はさまざまだった」とロシアに配慮した表現が入った。
ラブロフ露外相は、「今回のサミットは成功した」と述べたが、ロシアから評価されること自体、成功とはほど遠い。
宣言は一方で、「すべての国家は、領土獲得を目的とした威嚇や武力行使を控えなければならない」とした。ロシアの侵略を許容したわけではない。国際社会は引き続き、ロシアに撤退を働きかけ、ウクライナ支援を継続すべきである。
首脳宣言が開幕初日に採択されたことも異例だった。加盟国が議論を尽くしたとはいえない結果となったことも残念だ。
インドは、ロシアとの伝統的な友好関係からウクライナ侵略への非難を避けてきた。
しかし、14億の人口を抱え、世界3位の経済大国に躍り出ようとするインドには、世界最大の民主主義国として、その影響力を正しく発揮することが期待されている。
「法の支配」に基づく世界秩序を維持していくための重要な責務を負っていることをインドは自覚してほしい。
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2023年9月12日付産経新聞【主張】を転載しています
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