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孫楊「処分短縮」で勢いづく中国

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用意周到、それとも政治的パフォーマンスか、異様な光景だった。7月10日、東京五輪に出場する中国選手団の第1陣が成田空港に到着すると、中国国際航空の従業員が白い防護服で身を固め、「熱烈歓迎」のボードを掲げながら出迎えた。

 

昨年11月、体操の国際競技会に参加する中国選手団が防護服とゴーグルという姿で来日して周囲を驚かせた。今回の選手団はフェースシールドとマスクにとどめたものの、日本国内で暮らす従業員が完全装備だったのは、新型コロナウイルス感染症を封じ込められず、東京五輪が安心安全ではないことを示そうとしたのではないか。

 

孫楊

 

スポーツ仲裁裁判所(CAS)は6月、ドーピング規定違反のため2020年2月に8年間の資格停止を受けていた中国の競泳選手、孫楊(29)に対する処分を4年3カ月にする裁定を下した。昨年4月に「孫楊 復権画策か」と指摘したが、資格停止期間が大幅に短縮され、24年パリ五輪出場への道が開けたのは事実上の勝訴といえる。

 

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孫楊は12年ロンドン五輪の競泳男子400メートル、1500メートル自由形、16年リオデジャネイロ五輪200メートル自由形の金メダリストだが、傍若無人の行動は目に余るものがあった。18年9月の抜き打ち検査では、検査官の資格と手続きに問題があると、ボディーガードに血液検体をハンマーで破壊するように命じる暴挙に出たという。オリンピアンとは言い難い人物が復権できたのはなぜなのか、背景を探ると中国の政治、経済的影響力の大きさがみえてくる。

 

2019年7月、ドーピング疑惑の中で世界水泳選手権に出場し、男子200メートル自由形で金メダルを獲得した孫楊(AP Photo/Lee Jin-man, File)

 

17年、国際オリンピック委員会(IOC)に衝撃が走った。有力スポンサーの米ファストフード大手、マクドナルドが突然、最高ランクの「ワールドワイドオリンピックパートナー(TOP)」からの撤退を発表。1976年から五輪を支えてきたのに「費用対効果を期待できない」と去っていった。

 

IOCの苦境を見透かすかのように中国企業が動き出す。早速、電子商取引の「アリババ」がTOP入りすると、2021年からは乳製品メーカー「蒙牛乳業」が加わった。コカ・コーラとともに「ノンアルコール飲料・乳製品」分野を担い、両社合わせて総額30億ドルの契約を交わした。

 

CASは独立機関とはいえ、トップはIOCのジョン・コーツ副会長である。厳しい懐事情からすれば、チャイニーズ・マネーに頼らざるを得ないからこそ、孫楊への〝大甘裁定〟に至ったとみえてしまう。

 

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今年5月、IOCのトーマス・バッハ会長は中国の習近平国家主席と電話で会談し、22年北京冬季五輪成功に向けて協力していくことで一致した。香港の民主派弾圧や新疆(しんきょう)ウイグル自治区の人権問題で米中関係の緊張度が増し、ボイコットの動きを絶対に阻止したい両者は「政治を持ち込むのは反対」というメッセージを発信した。

 

だが、バッハ会長は15年の国連演説で次のように述べている。「スポーツは政治と無関係とはいかない。なぜなら、スポーツは社会の孤島ではないからだ」。相手によって言葉を選ぶため、この人の真意をつかむのには、いつも苦労する。

 

一方の中国はブレない。防護服の出迎え、孫楊の勝訴、トップ会談という点が、太く強力な線となってつながり、IOCのバッハ、コーツ体制に絡みつく。東京大会閉幕後、五輪運動の覇権を握ろうとする国家戦略を見逃してはならない。

 

筆者:津田俊樹

 

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2021年7月20日付産経新聞【スポーツ茶論】を転載しています

 

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