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韓国司法の迷走、逆転相次ぐ「徴用工」「慰安婦」訴訟で日韓関係は

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戦後最悪の日韓関係を招来したのは、いわゆる徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた2018年10月の韓国大法院(最高裁判所)の判決だった。だが、その判決が6月に下級審で逆転した。今年1月の判決で日本政府に賠償を命じた慰安婦訴訟でも4月、別の原告団に対して相反する判決が出ている。これらの逆転判決には韓国政府の政治的意図が反映されているのか。東京五輪の開会式出席のため訪日の意向を示しているとされる文在寅(ムン・ジェイン)大統領だが目下、徴用工、慰安婦問題で韓国政府の対応に変化はみえない。

 

 

政治的配慮か

 

ソウル中央地裁民事34部(キム・ヤンホ部長判事)は6月7日、元「徴用工」(朝鮮人戦時労働者)と遺族計85人が日本企業16社を相手取って起こした損害賠償請求を却下した。判決は18年10月の大法院判決を真っ向から否定しただけでなく、請求を認めて日本企業の資産が差し押さえで売却されれば「大韓民国の文明国としての威信が地に落ちる」とし、「米韓同盟の毀損(きそん)や収拾不可能な外交的波紋を起こす可能性がある」と外交、安全保障への影響まで論じた。

 

判決は当初、6月10日に予定されていたが、急遽(きゅうきょ)繰り上げられた。11日から英国で先進7カ国(G7)首脳会議が控えていた。前倒しの逆転判決は、文氏が望んでいた菅義偉首相との会談に向けた環境整備だったのでは、との観測が出た。

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一方、慰安婦問題では、ソウル中央地裁民事15部(ミン・ソンチョル部長判事)が4月21日、元慰安婦ら20人が日本政府を訴えた損害賠償請求を却下した。判決は、国家の主権免除原則を否定して別の原告12人の請求を認めた1月8日の判決(同地裁民事34部、キム・ジョンゴン部長判事=当時)とは正反対に、「主権免除の原則に基づき日本政府は訴訟の対象にならない」と判断。さらに1月の判決自体についても「主権免除の例外を拡大するのは、韓国の外交政策と国益に潜在的に影響を及ぼしかねない」と批判した。

 

文氏は1月の原告勝訴判決の10日後、新年記者会見で「正直、少し困惑している」と地裁の判断を問題視するような発言を行った。すると2週間後、同地裁34部の部長判事以下の全員が異動になった。この34部は全員交代後の3月末、慰安婦訴訟で原告が勝訴した1月の判決をめぐり「日本政府に訴訟費用を強制執行するのは国際法違反」との決定も出している。原告らが裁判所に訴訟費用の決定申請を行っていないにもかかわらず、裁判所が職権で決定したという。司法の政治的配慮が見え隠れしている。

 

 

ワン・ストライクとスリーストライク・アウト!

 

日韓関係悪化の元凶は、いわゆる徴用工と慰安婦に関する2つの司法判決に凝縮されてきた。

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一つは元徴用工を主張する原告が日本企業を相手に起こした賠償請求訴訟。実際は徴用ではなく、自らの意思で日本企業で労働した朝鮮半島出身者だが、大法院が18年10月に日本企業への賠償命令を出し、韓国内の日本企業資産の現金化が迫っている。

 

もう一つが今年1月、ソウル中央地裁が出した元慰安婦らによる日本政府を相手取った賠償請求訴訟の判決で、国家は他国に裁かれないとする国際慣習法の主権免除原則を否定して、日本に賠償を命じた判決だ。

 

日本政府関係者は、徴用工判決が日韓請求権協定違反で「ワン・ストライク」だとすれば、慰安婦訴訟判決は「スリー・ストライクでアウト。昔だったら戦争ですよ」と苦笑する。

 

スリー・ストライクとは、①慰安婦をナチスの行為と同列の『反人道的な犯罪』だと決めつけ、主権免除対象の日本政府に1人当たり1億ウォン(約950万円)の支払いを命じた国際慣習法違反②「請求権問題は解決済み」だとした1965年の日韓請求権協定違反③判決の強制執行を行えば国家の在外資産保護を定めたウィーン条約違反-の3つの国際法違反である。

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では、現在の日韓関係から見て、徴用工判決と慰安婦判決のどちらがより深刻なのか。日本政府関係者は徴用工判決の方が「危険だ」とする。慰安婦判決で韓国内の日本国資産が実際に強制執行される現実味は低いとされる。だが、徴用工訴訟では、日本企業の資産売却の手続きがすでに最終段階にあり、現在は「韓国政府が売却の進捗(しんちょく)を止めている」(関係者)とされる。現金化されれば、日本は即座に制裁に出るからだ。

 

 

日本は楽観せず

 

日本政府は徴用工訴訟などの逆転判決をどう受け止めたのか。

 

外交当局者によると「むしろ、やりにくくなった」のが本音だという。つまり、「状況は全く変わっておらず、韓国政府に日韓関係を好転させようという姿勢はみえない」にもかかわらず、日本側の一部に「韓国司法に国際法の視点が戻った」との期待が出たことで、外交的には逆効果だというのだ。逆転判決後も、日本は韓国政府にボールがあると主張、韓国側は日本に「誠意をみせてほしい」として、協議は平行線をたどっている。

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大法院判決がある以上、状況を打開する方策は韓国側の政治決断しかない。具体的には、立法措置で徴用工の賠償を日本に求めず韓国政府が行うなどの対応である。徴用工判決が「国際法違反」であることは変わらないが、日本側は「事態を好転させるには、韓国側のメッセージが必要だ」としてきた。逆転判決後の6月21日、ソウルで日韓外交当局の局長級協議が行われたが進展はなく、韓国側は従来の立場の説明に終始したという。

 

 

さらに先鋭化の動き

 

韓国側の見方は異なる。韓国の政界筋は「文政権は対日政策で失敗したという評価を残したくない。そういう意味では青瓦台(大統領府)の雰囲気は変わった」と話す。

 

しかし、実際に事態が収拾に向かっているわけではない。逆転判決は徴用工、慰安婦訴訟とも原告団が控訴し、結論は次期政権期に持ち越されることになった。文政権は、対日強硬路線のレガシー(政治的遺産)をアピールするためにも、任期中に大胆な政治的解決は行わないとの見方が大勢だ。

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ソウル中央地裁は6月9日、日本政府に対し「韓国内の財産目録を提出せよ」との決定を出した。これは慰安婦判決の強制執行手続きの第1段階だ。裁判自体の成立を否定する日本政府は一切の対応を取っていない。日韓の緊張関係はさらに先鋭化したようにみえる。

 

筆者:久保田るり子(産経新聞編集委員)

 

 

2021年7月11日付産経新聞【久保田るり子の朝鮮半島ウオッチ】を転載しています

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