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日本のカラス 世界一の賢さの秘密に迫る

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Hiroaki Sato

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――カラスに匹敵する頭脳を持った鳥は

 

「いませんね」

 

――カラスは鳥の世界の霊長類ですか

 

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「それより、すごい存在ですよ」

 

東大名誉教授・慶応大学訪問教授で、鳥類学者の樋口広芳さんへの取材の一コマだ。

 

カラスは優れた知能で私たちを驚かせる。ときに感心させられ、ときには迷惑。レッドカード級の危険行為さえもある。こうした野生のカラスたちとの出合いを探索記風にまとめた『ニュースなカラス、観察奮闘記』が出版された。著者はもちろん樋口さん。

 

 

話題に事欠かず

 

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登場するカラスは多才。クルミの殻をタイヤで割らせる「車ガラス」、線路に石を載せる「置き石ガラス」、煙浴に通う「銭湯ガラス」、風呂場に入る「石鹼(せっけん)ガラス」、神社から火のついた蠟燭(ろうそく)を持ち去る「ぼやガラス」などについて紹介されている。その多くは樋口さんが現場を訪れ、カラスの行動をつぶさに観察した結果の報告だ。

 

いずれも新聞やテレビでニュースになっている。カラスは話題に事欠かない鳥なのだ。

 

 

水道の栓を回す

 

中でも第一級の驚きは2018年3~4月に横浜市内の公園で観察された「水道ガラス」の例だろう。雌のハシボソガラスが噴水型の水道の栓を嘴(くちばし)で回し、数センチほど上がる水を飲むのだ(QRコードに動画)。

 

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水浴びをするときは栓を大きく回して水量を増すのだから、すごい知能だ。近隣の人の話だと17年から始めていたらしい。

 

野生のカラスの水道利用は札幌市など他の4地域でもあって他の研究者によって観察されている。うち3例はレバー式の水道。操作は回転式の方が難しい。

 

 

海外にも例がない

 

樋口さんは海外の例を調べたが、中国での1例があったのみ。水道はレバー式でカラスはペットだった。いずれにしても水道を操作するカラスは世界的にも珍しく、栓を回せるのは、日本のカラスだけなのだ。

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クルミ割りガラスも世界に例がない。秋田市や仙台市などには車にひかせて堅い殻を割り、中身を食べるものがいる。うまく割れるように位置を移す巧者もいる。仙台市では確実性を増すために、赤信号で止まった車のタイヤの前に歩み寄り、クルミを置く個体も現れたというから驚きだ。

 

 

ゴミが知恵の泉

 

なぜ日本のカラスたちは賢いのか。

 

私たちが日常、目にするハシブトガラスは東アジアに、ハシボソガラスは欧州にも生息しているのだが、海外では日本でのような行動は見られないのだ。

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「考えられる原因は、ゴミだと思います」と樋口さんは語る。

 

海外の都市域では大型のゴミ箱が一般的だが、日本は道路の狭さもあって、路上に生ゴミの袋を置いて回収を待つ方式が主流。

 

高度成長期に都市の生ゴミは量と種類を増し、カラスたちはいつ、どこで、どんな食べ物が手に入るかを貪欲に学習していった。

 

多様性への弾力的な対応が、賢さの発達を促すことになったらしい。

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人工物の利用で

 

午前中に食べ物を得た都市のカラスは、一部を隠して「貯食」する。こうして食探しの苦労から解放された彼らには時間のゆとりが生まれ、滑り台ガラスや電線で遊ぶ大車輪ガラスの出現につながったのだ。

 

ちなみに横浜市内で1996年に発生した線路への置き石騒動は、カラスの貯食行動が関係した、お騒がせ事件だった。

 

もともと知能が高かったカラスが人間社会との関係を深め、人工物を積極利用することで、持てる能力をさまざまな形で発揮する機会が増えたのだ。

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火の利用さえも

 

京都市の伏見稲荷大社に出没するハシブトガラスは燃えている和蠟燭が好物だ。嘴で蠟燭を切り取って炎がついたままを、くわえて空へ舞い上がる。

 

こうして盗んだ蠟燭をカラスは林の落ち葉の間やわらぶき屋根の隙間に隠すので物騒だ。

 

カラスは油脂分が大好きで、石鹼を浴室や洗い場から盗むのもそのためだ。主食ではなく、嗜好(しこう)品のようなものらしい。

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炎を全く恐れず、熱でとけた蠟(ろう)を味わう行動は準調理。火の利用に他ならないではないか。

 

 

惜しまれる天才

 

樋口さんによると天才的なカラスはまれにしか現れない。その新行動が集団内で広まる様子を研究するには、個体識別をしたカラスを対象に幼少期から観察することが必要だ。

 

樋口さんの著書『ニュースなカラス、観察奮闘記』

 

横浜の公園で水道の栓を回していたハシボソガラスの雌は、ひなを育てていたので格好の研究対象だったが、外敵に襲われたらしく突如、ひなも姿が消えた。残されたつがいの雄に栓を回す才覚はない。その姿に樋口さんが一句。

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「妻逝きてわびしきなかに夏すぎぬ」―。

 

樋口さんのカラス研究は50年に及ぶ。

 

筆者:長辻象平(産経新聞)

 

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2021年12月22日付産経新聞【ソロモンの頭巾】を転載しています

 

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