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2021年夏、ある大学教員のツイート投稿をめぐり、ネット上で彼の処罰を求める署名運動が繰り広げられた。請願の対象は、日本の著名な社会学者であり名門早稲田大学教授の有馬哲夫氏だった。
有馬氏は日頃から率直でファクト中心の発言でよく知られている。しかし、その「ありのままの発言」が、正体不明の特定団体の署名活動を引き起こしたのである。
署名運動の発起人は、有馬氏のツイートの一部が「民族差別」と「歴史否定」に相当すると主張した。 また、彼の慰安婦問題と韓国人コミュニティーに対する発言が、偏見に基づくと主張し、内部調査および大学からの解職を要求した。
世界中で「キャンセルカルチャー」が蔓延するなか、有馬氏の支援者は、ただちに同じ署名サイトで支援を呼びかけ、その署名数は相手のおよそ6000に対して1万5000を超えた。彼は最近、ハーバード大学法科大学院のマーク・ラムザイヤー教授との共著論文を通じ、慰安婦に関する立場を強化した。
有馬氏はJAPAN Forwardとのインタビューに応じ、署名運動事件などに触れた。また、「社会科学研究ネットワーク」(SSRN)で6,500回以上ダウンロードされた近著の論文に関しても語った。
有馬氏との主なやりとりは以下の通り。
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キャンセルカルチャーの対象であったが、どう思うか?
大学教員のツイートをめぐって解職請求や署名運動が開始されるなど、日本ではあまり聞いたことがない。発起団体は以前も似たような署名集めをしたが、一度も成功したことはないようだ。どの国も同じだと思うが、大学には職務規定がある。その規定に違反しない限り、解職される場合はほとんどない。大学での授業のなかならいざ知らず、私のツイッター上での発言はあくまでプライベートな空間で行われる個人的意見の表明で、職務の一環ではない。また、内容が差別的だとしてツイッター社に削除されたこともない。
「人種差別」と「歴史否定」の告発に関してどう思うか?
全く理解できない。韓国人に関する発言は、特定の文脈の中で事実を指摘したものだ。いかなる形でも、特定の人種および民族グループを差別する表現をしていない。
同様に、慰安婦問題に関する私の立場は、歴史的証拠と研究に基づいたものだ。 いまだに反対派による合理的で学術的に健全な反論を見たことがない。あえて言えば、私は慰安婦問題について非常に客観的な立場とっている。例えば、韓国軍がベトナムで慰安所を運営したと告発した山口敬之氏のスクープ記事(週刊文春)を、私が反証したことがある。ベトナムでの事件は、韓国軍が運営した慰安所ではなく、腐敗した韓国軍人が個人的に経営していた売春宿だった。
慰安婦性奴隷言説がまかり通ってしまうのはなぜか?学会の問題か?
一部はそうだ。例えば、日本の名門である東京大学を見てみよう。伝統的に共産主義イデオロギーの温床であり、多くの著名な左翼思想家を生み出してきた。そして、その多くが日本のエリート校の教員となり、近代史をはじめとする特定の分野で自虐的議論を主導してきた。 彼らは大日本帝国と植民地の歴史を否定する文脈で近代史を論じる。そういう流れでいくと、慰安婦制度は彼らにとって日本の植民拡大から生まれた副産物なのだ。
論文では慰安婦と北朝鮮とのつながりを探究した。どういう内容なのか?
歴史的背景から説明しよう。慰安婦問題は90年代初、ソ連が崩壊し、北朝鮮に対する影響力が弱まった時期に浮上した。北朝鮮は事実上、最も強力な核の後ろ盾を失い、91年以降、米国と単独で向き合わなければならなくなった。このため、当時の金日成(キム・イルソン)主席と後の政権では弾道ミサイルと核兵器を開発に力を入れた。当然ながら東アジアの安保に深刻な懸念を巻き起こした。
もう一つ重要な出来事は、北朝鮮による日本人と韓国人の大量拉致であった。これは日韓共通の外交危機でもある。北朝鮮の独裁政権は、日本を伝統的な同盟国(米国)と潜在的な同盟国(韓国)から遠ざける方法を必死に模索していたのだ。そのため、北朝鮮は1991年から始まった日朝国交正常化交渉で、慰安婦問題をすぐさま持ち出した。
正義連との関係は?
この団体は、根拠のない反日感情をよく煽っており、韓国を同盟国から遠ざける方法を積極的に推進してきた。また、慰安婦に関する日韓との和解の試みを一貫して妨害してきた。
このようなアジェンダは、現在、汚職や詐欺の疑いで調査を受けている元正義連代表の尹美香氏のもとで拡大された。正義連の前身である挺隊協は、もともと北朝鮮との連携のもとで創立され、尹氏はその当初から積極的に活動してきた。尹氏の夫である金三石氏は、北朝鮮のスパイ容疑で逮捕され、北のエージェントに書類を渡した容疑で起訴された経歴がある。また、彼の妹である金ウンジュ氏も同じ容疑で逮捕、起訴された。両者とも有罪判決を受けた。
北朝鮮が正義連に直接命令を下している文書化された証拠はない。しかし、正義連と北朝鮮の「つながり」を否定することは、現実とかけ離れている。
河野談話は朝鮮慰安婦の「強制連行」と「性奴隷」の証拠としてよく使われる。撤回すべきか?
撤回すべきだ。談話は明らかに歴史事実に反している。談話は、慰安婦問題に対する世界の認識を誤らせ、日本人の名誉を棄損し、彼らの対韓感情を悪化させる。もともとそれを意図する北朝鮮の陰謀から生まれたものだからだ。
問題は、自民党内の河野太郎氏とその派閥がそれに同意するかどうかだ。太郎氏は39歳の時、C型肝炎で苦しむ父親の河野洋平氏に肝臓の一部を寄贈した孝行息子である。太郎氏はポスト岸田の有力な総理候補であり、良かれ悪しかれ、父親の談話を否定することはイメージを悪くするであろう。
慰安婦問題はどう解決していくべきか?
何よりも韓国の歴史歪曲の是正が必要だ。メディア学にはチャネリング理論と呼ばれるものがある。地面に水を注ぐ時、水は常に同じ流れのパターンに従って地下に水路を形成する。パターンを変更するには、元の流れを根本的に変更する必要がある。 韓国の歴史教育が大きく変わらない限り、改善できないと思う。政治的解決はこれがなされたあと、可能になるだろう。
筆者:吉田賢司(ジャーナリスト)
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