元横綱白鵬の宮城野親方が、日本相撲協会を退職した。弟子だった元幕内力士の暴力問題で宮城野部屋が閉鎖され、再開のめどは立っていない。
Hakuho Press Conference June 9 2025

会見する白鵬翔氏=6月9日午後、東京都千代田区(岩崎叶汰撮影)

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大横綱として敬われる立場にありながら、国技の伝統を軽んじた責任は小さくない。角界を去ることになったのは残念だが、やむを得まい。

大相撲で優勝45度を誇る元横綱白鵬の宮城野親方が、日本相撲協会を退職した。弟子だった元幕内力士の暴力問題で宮城野部屋が閉鎖され、再開のめどは立っていない。それが退職理由の一つだという。

6月9日に記者会見を開いた白鵬氏は、相撲の新たな国際組織の設立を目指し、相撲の普及と発展に尽くすと述べた。

宮城野部屋で謝罪する宮城野親方(元横綱白鵬、左)と幕内北青鵬=2024年2月23日日午後、東京都墨田区

部屋の閉鎖は、過去に暴力問題を起こした部屋への対応と比べ厳し過ぎるとの声がある。だが、協会は白鵬氏の年寄襲名に際し、規則を順守する旨の誓約書に署名させていた。

独断で手順を省いた横綱土俵入り、危険な肘打ちを見舞う立ち合いなど、国技の伝統と横綱の地位を軽視した現役時代の振る舞いは、目に余るものがあった。弟子の暴力を巡る不始末は、協会が懸念した通りの結果ともいえる。そもそも部屋を起こす資格があったのか、白鵬氏はこの機に省みてほしい。

協会の統治能力の低さにもあきれる。平成30年10月に「暴力決別宣言」を公表し、親方や力士らへの研修などを打ち出したが、その後も部屋での暴力事案が後を絶つことはなかった。

朝青龍と日馬富士の両横綱は自身の暴力がもとで引退し、貴乃花親方(元横綱貴乃花)は、弟子が日馬富士から受けた暴力の対応を巡り、協会と対立し退職した。平成以降に誕生した横綱11人(現役を除く)のうち、角界を去ったのは白鵬氏を含め6人に上る。異常だ。

会見する(左から)白鵬翔氏、森井理博氏 =6月9日午後、東京都千代田区(岩崎叶汰撮影)

白鵬氏の実績は否定しない。野球賭博や八百長問題で国技の信用が地に落ちた時期、土俵内外での奮闘で相撲人気を立て直した。東日本大震災により傷ついた被災地への支援活動で、先頭に立った姿も忘れ難い。

そんな功労者を角界のリーダーとして育てることができず、今回の問題では部屋の再開時期を示さず「飼い殺し」の状態に置いた。協会のありようも禍根の一つではないのか。

力士の数は少子化の影響で減り続けている。加えて旧態依然の暴力体質では、若者はますます土俵に背を向けよう。白鵬氏の資質に責任を押し付け、問題の幕を引いてはならない。

2025年6月10日付産経新聞【主張】を転載しています

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